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第8回:自動車対人の事故

今回は、自動車と人の事故についてお話をしていきたいと思います。
警察庁が5月に発表した交通事故統計によると、令和3年1月から4月末時点の交通事故死亡者数は813人でした。そのうち歩行者は293人。うち、222人が65歳以上でした。

高齢者の特性

交通事故は毎年12月に最も件数が増加するのですが、特に12月に多いのが広い場所での歩行者との出会い頭での事故です。これもやはり高齢者が多い。人口割合的に65歳が多いので当然と言えるのかもしれませんが、高齢になるにつれて、人は目先のリスクには強く、次のリスクは頭から飛ばしてしまう特性が見られるようになります。
また、体力の衰えから、横断歩道のある場所ではなく、目的地に最も近い場所で道路を横断しようとしてしまう傾向もあります。 

車から見ると、右側から出てきて轢かれてしまうケースが多いです。高齢者が道路を横断する時、自分の右側から来る車両やバイクには注意が行きますので、そこはしっかりと見ていて距離を図り、道路を横断しはじめます。でもその反対から来る車両やバイクには注意が払われていませんから、事故となってしまうわけです。

過去に分析した事故映像には、トラックが直進時に横断歩道上で歩行者をはねてしまったけれども、運転手に対する刑事罰がまったくなかった事例というのもありました。

事故は夜間に起こったものでした。歩行者は横断歩道上を歩いていましたが、事故が起こった時、信号は車両側が青でした。さらにトラックは制限時速50キロのところを44キロで走行していました。幸い歩行者の方は事故から3日後に退院しましたが、横断歩道上の事故ですから、大半の方が「こういうケースでも歩行者よりもトラックが悪いんじゃないか」と言われます。歩行者対自動車の場合、イメージとして自動車への過失割合が大きいと思われるんですね。 

過失というのは2つあって、民事上のものと刑事上のものです。ドライバーにとっては、事故を起こしたことで刑務所に入るかどうかという刑事罰の方がより気になるところかもしれません。
先ほどの事故で言うと、民事上の過失は7:3でした。歩行者側に7です。トラック側は3。
一方、刑事罰はというと、先ほど述べたようにまったくありませんでした。罰金も反則点数も免許停止も何もなかったのです。

ルールを守れば自分を守れる

警察が事故状況を取り調べた後、検察庁に送検します。書類送検といいますが、送検した際に検察側が「これは起訴できない」と言ったのです。不起訴となりました。もしもこの事故の時、ドライバーに道路交通法違反があれば、間違いなく立件された案件です。しかしドライバーには違反がありませんでした。そのため刑事罰は問われなかったのです。

交通ルールを守るという事は、自分の身を守るということです。
ただ速度を守れと言っても、人はあまり行動パターンを変えません。万が一車道に歩行者がいた場合に自分の立場を守れなくなるよ、速度超過しない事は自分の身を守る事だよ、と伝えてみてください。
無理な横断や信号無視をする自転車や歩行者は、残念ながら割と頻繁に見られます。いつそういう場面に遭遇するか分かりません。そういう時でも交通ルールを守っていれば、自分を守れるかもしれないと思うと、ドライバーの行動は変わっていくと思います。

ドライバー指導の場合には、信号を守る・速度超過をしない・ハイビームにできるタイミングではハイビームにする、この3つのポイントを、「守った場合にどう自分を守れるのか」まで落とし込んだ話をして、運転の習慣を変えてあげて欲しいと思います。

最後に、対歩行者の事故で夜半から明け方に増える「路上横臥(おうが)」について触れておきたいと思います。

路上横臥とはつまり道路上で寝込んでしまった歩行者を、車が轢いてしまう事故です。歩行者が道路に寝ているとはあまり想定しないと思うのですが、こういう事故でも速度超過が10キロ以上あると、ドライバーには刑事罰が科せられます。

不可避の状況に思われる事故でも、違反があれば責任を問われます。どういう行動パターンを取れば自分を守れるのか、ドライバーの運転習慣を変えるためにも、ドライブレコーダーの映像を使ってダイレクトに伝えられる有効性を活用してください。

 

次回からはドライバー指導をする方向けに「指導時のポイント」をお伝えしていきたいと思います。

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執筆:上西 一美
株式会社ディクリエイト代表
一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)理事長
Yahooニュース公式コメンテーター

1969年生まれ。関西学院大学法学部卒業。大手企業を経て神戸のタクシー会社に25歳で入社。27歳からその子会社の社長に就任。その経験を元に、2004年ディ・クリエイトを設立し、交通事故防止コンサルティングを開始。ドライブレコーダーの映像を使った事故防止メソッドを日本で初めて確立し、現在、年間400回以上のセミナー活動をこなす。2万件以上の交通事故映像を駆使し、その独特の防止策で、依頼企業の交通事故削減を実現している。2019年よりYouTube番組『上西一美のドラレコ交通事故防止』を毎日更新中。

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